STARTUP スタートアップ―アイデアから利益を生みだす組織マネジメント―
1,870円(税込)
発売日:2017/08/25
- 書籍
- 電子書籍あり
UCLA、コロンビア大など全米70校が「アントレプレナーシップ」の教科書に採用!
コンサル会社を辞め、念願の起業を果たしたオーエン。だが事業は失敗。膨大な借金を抱え、あとは破産を待つだけに。彼は一体どこで間違えたのか。起死回生の一手はあるのか? 起業家の挫折と逆転の物語を読み進むことで、スタートアップという新しい時代の経営手法を「実体験」できる、新事業や新商品開発のための必読書。
トム・リューエからの手紙
はじめに
2 これ以上だましてはいけない
3 営業トークだけでは何も売れない
4 プレーし続けるカギは、どう勝つかではなく、どう負けるか
5 本当のプロは全ゲームで勝負しない
6 スタートアップにとって重要な数字を覆い隠す「バニティメトリクス(虚栄の指標)」
7 遠慮していては助言者は見つからない
8 まずは顧客と顧客ニーズ、自分のビジョンは二の次でいい
9 一か八かは駄目、小さく賭けてチャンスをつかむ
10 新しいことをやるなら専門家でも用意周到な準備が必要
11 人はビジョンを買わない、問題の解決策を買う
12 解決すべき問題を発見したかどうか言えるのは顧客だけ
14 仮説の検証に遅過ぎるということはない
15 顧客インタビュー成功のカギは誘導尋問を回避し、オープンエンド(自由回答)型の質問をすること
16 顧客インタビューを上手にこなすには練習あるのみ
17 自分の仮説の誤りに気付くのは、正しさを証明するのと同じくらい重要
18 新しい仮説を検証せずに新しいアイデアにピボット(方向転換)するな
19 運に最も恵まれないときに備えてチップを節約せよ
20 成功する起業家は再挑戦するために、失敗を認め、フォールドし、生き残る
21 アイデアに大金を投じる前に仮説を検証せよ
23 成功する起業家は例外なく成功よりも失敗を多く経験している
24 頑張れば頑張るほど運に恵まれる
25 有望顧客を見つけるチャンスはどこにでも転がっている――探す努力さえすれば
26 緻密なインタビューによって潜在顧客から最高のフィードバックを得る
27 大損しないために「バニティメトリクス」を認識せよ
28 偏頭痛級の問題を見つけるまで顧客インタビューを続けよ
29 偏頭痛級の問題について聞かれると人は語りたくて仕方がなくなる
30 得られた情報の良しあしに関係なく、インタビューは客観的に
31 人が商品を欲していると証明できなければ何をやっても無意味
32 運を呼び込む人はどこに行っても新たな経験を求め、新たなチャンスを見いだす
33 ポーカーでも事業でも運頼みは良い戦略ではない。良い戦略こそが運を呼び込む
35 不運に備えて蓄えろ
36 恐れて何もしないのは最悪、 事業のアイデアを台無しにしてしまう
37 ティルトのときの自分の性向を理解し、対策を取る
38 偏頭痛級の問題に出会ったら、すぐに分かる
39 誤っても、うろたえない
40 小さく賭けて仮説の正しさを検証する、それまでオールインに出るな
41 二度目のチャンスはめったに来ない、一度目のチャンスを逃すな
42 たとえ偏頭痛級の問題を見つけても、解決策作りには警戒心と見直しが必要
43 顧客が商品を欲し、それを実現するビジネスモデルが存在すると証明せよ。それまでオールインは禁物
44 当初のアイデアの良さ(あるいは最初の手札の強さ)は常に相対的なもの
訳者あとがき――さらば大企業、こんにちはスタートアップ
書誌情報
読み仮名 | スタートアップアイデアカラリエキヲウミダスソシキマネジメント |
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装幀 | 新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 352ページ |
ISBN | 978-4-10-507041-0 |
C-CODE | 0030 |
ジャンル | ビジネス・経済 |
定価 | 1,870円 |
電子書籍 価格 | 1,870円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/09/08 |
書評
スタートアップを“疑似体験”できる本
スタートアップとは、画期的なアイデアをもとに会社を設立して起業することである。世の中を変えるアイデアを手に、資金や仲間を集めて商品を開発し、社会に自分のビジョンを問う、ワクワクしドキドキもする活動だ。我が国のスタートアップには、古くはソニーから最近のソフトバンクや楽天に至るまで種々の事例がある。昨今ではクラウドコンピューティング等の恩恵による起業コストの激減で、インターネット分野を中心にスタートアップにも追い風が吹いている。
停滞する日本経済の突破口としても期待され、政府による起業促進策も矢継ぎ早に繰り出されているが、国全体では依然少ないのが実態だ。起業活動の活発さを示す総合起業活動指数は5・3%と、世界的に見て低い水準に長らくある。主たる原因の一つは「具体的にどうやれば良いか分からない」といったスタートアップのノウハウ不足だ。
本書はこのような我が国の状況を劇的に改善しうる良書である。新米起業家オーエンとベテラン起業家でエンジェル投資家のサムによる起業物語を通じて、スタートアップの原理原則を具体的に教えてくれる。
著者ダイアナ・キャンダー氏がスタートアップに挑戦する人に本書を通じて教えようとする原理原則は4つだ。
・スタートアップの目的は商品を作ることではなく顧客を見つけること
・人は製品やサービスを買うのではなく問題の解決策を買う
・起業家は占い師ではなく探偵でなければならない(つまり、アイデアが事業化可能であることの裏付けとなるファクトを見つけるべき)
・成功する起業家はリスクをとるのではなく、運を呼び込む(つまり、リスクはとるものではなく減らすもので、減らしながらチャンスを窺うべき)
「顧客開発モデル」や「リーンスタートアップ」を知る人にはお馴染みであり、目新しさは感じないかもしれない。だが本書の凄さは、スタートアップ未経験者でも物語を読むことでこれらの原理原則を自分のこととして理解できる点にある。
私は前述の「顧客開発モデル」の提唱者で本書に序文も寄せるスティーブ・ブランク氏に師事し、同氏の方法論を活用して我が国の起業家の成功率をあげるために、大学等での起業家教育からベンチャーキャピタル投資まで様々な活動をしている。当方主催の実践プログラム「リーンローンチパッド」は1500人超の起業志望者が受講し、修了生によるスタートアップも続々誕生している。
これらの活動で痛感している課題は、スタートアップのための原理原則は、スタートアップでの失敗経験がないと本当には分からないということだ。起業経験がない学生や大企業の社員でも読めば分かるが、実際にはやれない、又はやらないことが少なくない。これでは、折角の先人の知恵も宝の持ち腐れである。スタートアップでの失敗を防ぐ教えは、失敗しないと理解できないジレンマがあるのだ。
本書はそのジレンマを、物語による疑似体験を提供するアプローチで克服した。今までにない中古自転車事業に挑戦するオーエン・チェースの物語に読者をどっぷり浸からせることで「ピンチ! どうしたらいいんだ」「そうか、だから価値仮説の検証が大事だったのか」とスタートアップの原理原則が自分事として自然と染み渡っていく。ポーカーという身近なゲームになぞらえて分かりやすく教えてくれるのも大きな魅力だ。
本書はまず起業志望者に読んで欲しい。起業する時に大事なことが自ら失敗経験を積まずとも身につくだろう。大企業内の新規事業担当者にも本書は有用だ。昨今、大企業では新たな中核事業の構築に励むところが増えているが、スタートアップ未経験の社員が担うことが多く、やり方が分からなくて上手くいかない、又は担い手が現れないという課題を抱えている。本書はそのような課題の克服の良い薬になるはずだ。
最後に、本書の「物語による起業家教育」というアプローチは今後の起業家教育のあり方を変える可能性があることを付け加えておく。本書には失敗の疑似体験だけでなく、スタートアップの楽しさを伝え起業意欲を掻き立てる機能も備わっている。オーエンが会社を立て直すためにロードバイクについて「偏頭痛級の問題」を抱える潜在顧客を探すインタビューのシーンなどはとてもワクワクするし、自分でもスタートアップに挑戦したくなるはずだ。本書に続けて様々な角度からの起業家教育のための物語本が登場することを期待したい。
(つつみ・たかし ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ(株)代表取締役)
波 2017年9月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
ダイアナ・キャンダー
Kander,Diana
起業家兼コンサルタント。米カウフマン財団(アントレプレナーシップ教育で世界最大の非営利団体)の上級研究者を務め、アントレプレナーシップ教育の分野で幅広く活躍している。米ジョージタウン大学ロースクール卒業後に弁護士になるものの、すぐに起業家へ転身。以来、何度も起業してエグジット(持ち株の売却による投資資金の回収)に成功。多くのスタートアップに出資する投資家でもある。旧ソ連出身で、8歳の時に両親とともに難民として米国へ移住。2017年8月現在、ミズーリ州コロンビアで夫ジェイソンと息子トゥルーと一緒に暮らす。『STARTUP スタートアップ―アイデアから利益を生みだす組織マネジメント―』はジョージタウン大学やコロンビア大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、コーネル大学など全米70校で教科書として使われている。
牧野洋
マキノ・ヨウ
ジャーナリスト兼翻訳家。慶應義塾大学経済学部卒、米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクール修士。日本経済新聞社でニューヨーク特派員や編集委員を歴任し2007年に独立。早稲田大学大学院ジャーナリズムスクール非常勤講師。著書に『福岡はすごい』(イースト新書)、『官報複合体』(講談社)、訳書に『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(ジーナ・キーティング著、新潮社)など。