ミルクのお茶
1,320円(税込)
発売日:2001/09/21
- 書籍
ティーカップを両手で包み、ふたりで過ごした午後のひととき――。離れていても大事な大事なガールフレンズ! 温かな友情を描いた陽だまりのような絵本!
世界はきっと、あたたかく、ばかばかしくかなしく、そしてせつないくらいやさしい。――そんなふうに祈るように生きていくために――大好きな女友達と、たくさん心がかわせますように。
書誌情報
読み仮名 | ミルクノオチャ |
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発行形態 | 書籍 |
判型 | A5判変型 |
頁数 | 64ページ |
ISBN | 978-4-10-416303-8 |
C-CODE | 0071 |
ジャンル | アート・建築・デザイン、絵本、コミック |
定価 | 1,320円 |
書評
波 2001年9月号より ひみつの暗号のような、うれしい約束ごと おーなり由子『ミルクのお茶』
思い出せないくらい、由子ちゃんとは長いおともだちをさせてもらっていて――だからここで彼女のことを、由子ちゃん、といつも通り呼ぶことを許してください――今まで、たくさんたくさん、一緒にいろんな時間を過ごしてきました。
買い物にもよく連れだって行くし(由子ちゃんはすてきな洋服や食器を見つけるのが上手)、おうちに呼ばれて、おいしい手料理をごちそうしてもらうこともしばしば(由子ちゃんは絵を描くのと同じくらい料理が得意)、近くの温泉まで日帰り旅行をしたり(由子ちゃんはゆでたまごみたいにお風呂好き)――会えないときは、ファックスで手紙を交換しあったり、電話をすれば、何時間もしゃべってしまったり。
楽しい話もすれば、愚痴を聞いてもらったりもするし、お互いの仕事について相談をし合ったり、難しい悩みについてもばかばかしい冗談も……聞き上手で、どんなときもナチュラルでいられる由子ちゃんとは、いくらしゃべっても尽きないくらいに、話がどんどんはずみます。
由子ちゃんの新刊『ミルクのお茶』は、やっぱりそんなふうに仲のいい、女ともだちふたりのやりとりを描いたお話です。
「友達になるということは――お互いの中に、その人のための椅子を用意することなのかもしれません。」(あとがきより)
由子ちゃんは本当に、ともだちのために、とっときの椅子を用意してくれている人。ふたつ年下のわたしがいつも座らせてもらっている椅子は、やわらかくて、ゆったりできて、ちょっとひんやりもしていて、うたた寝してしまってもかまわない、やさしいソファみたいな感じです。
ともだちを心から大事にする由子ちゃんだから、きっとわたし以外の由子ちゃんのともだちも、みんなそれぞれとくべつできもちのいい椅子を、用意してもらっているはずです。
『ミルクのお茶』の主人公と、そのおとなりに住むリリコさんにとって、ミルクがたっぷり8割を占めているお茶は、そんな椅子に添えられた、お互いへのとくべつなおもてなし。
主人公は、遊びに来たリリコさんに、ミルクだらけのお茶を淹れながら言います。
「このお茶は ひとりでいる時かあなたにしかいれないもん」
それは、このまぬけなお茶が、ふたりのおつきあいの中でこそ生まれたものだから。ふたりの間でだけ、暗黙に許されるものだから。他の人に出したら変なのって笑われてしまうかもしれないものでも、ふたりにとっては大切であったかいお茶――ひみつの暗号のような、うれしい約束ごとなのです。
由子ちゃんとともだちでもあるけれど一介のファンでもあるわたしは、由子ちゃんの新しい本ができあがるのが、いつもとても楽しみ。仕上がったばかりの本(ときには、ともだちの特権で、まだ仕上がりかけの本)を手にするときも、もう何度も読みかえした昔の本をまたひっぱり出してくるときも、それこそ、とくべつな椅子を用意している気がします。
実際は、それがそろそろくたびれてきた台所の座椅子なんかであっても――ページをめくる前には、できるだけゆったりとした時間を選んで、お気にいりのお茶を淹れて(うちの場合、ひとりの時か猫舌の旦那にしか出さない、冷たいミルク5割の紅茶)、あの褪せたようななつかしい色あいとまっすぐでせつない言葉たちに出会いに――短いけどやさしい小旅行に出かけるための、列車の座席にゆったりと座るみたいな……そんなふうに、今日も由子ちゃんの絵本をいちまい繰って、語り尽くせぬ感想を伝えに、すっかり覚えてしまっている電話番号を、また押すのです。
▼おーなり由子『ミルクのお茶』は、九月刊
著者プロフィール
おーなり由子
オーナリ・ユウコ
絵本作家、漫画家。主な著書に『ひみつブック』『てのひら童話1~3』『空からふるもの』『天使のみつけかた』『365日のスプーン』、〈犬の絵本〉シリーズ『幸福な質問』『モモ』『ミルクのお茶』、『ひらがな暦』など。