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行こう、どこにもなかった方法で

寺尾玄/著

1,760円(税込)

発売日:2017/04/21

  • 書籍
  • 電子書籍あり

扇風機やトースターで大注目の「バルミューダ」、心躍る創業ストーリー!

自然に近い風を生みだす夢の扇風機。世界一おいしいパンが焼ける感動のトースター。斬新な発想で家電を再発明し、卓抜したデザインで人々を魅了し続けるバルミューダは、いかにして生まれたか。ロックスターになりたかった若者が、ものづくりに新たな夢を見いだし、大ヒット商品を生みだすまでの興奮と驚きに満ちた道のり。

目次
序章 可能性
一部
第一章 旅の始まり
第二章 小さな家
第三章 ライフ・イズ・ショート
第四章 巣立ち
二部
第五章 十七歳の旅
第六章 天才
第七章 夢の終わり
第八章 創業
三部
第九章 手作りの会社
第十章 夢の扇風機
第十一章 エイプリルフール
終章 その後

書誌情報

読み仮名 イコウドコニモナカッタホウホウデ
装幀 加藤真由子/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-350941-7
C-CODE 0030
ジャンル ビジネス・経済
定価 1,760円
電子書籍 価格 1,760円
電子書籍 配信開始日 2017/05/12

インタビュー/対談/エッセイ

「バルミューダ」誕生までの驚きと興奮の道のり

寺尾玄

 人生は、何が起こるか分からない。

 私は今、家電を作る会社を経営している。昔は自分が経営者になるなんて、夢にも思わなかった。詩人か小説家になるのだとばかり思っていたのに、いつの間にこんなことになったのだろう。
 今から十年後の自分は、どこにいて、何をしているのだろう。また何か、新しいものを作っているのかもしれないし、そもそも、この世にいないかもしれない。しかし、今これを想像しても、きっと無駄なのだ。どうせ当たらないだろうから。十年前の私には、現在の自分は想像できなかった。

 今の会社を創業する前、私はロックスターを目指すミュージシャンだった。その前は、南ヨーロッパを一人で旅する青年だった。そしてその前は、バイクにまたがる不良少年だったし、さらにその前は両親の後を追いかける子供だった。
 その子供は、かつては赤ん坊だったのだが、そのもっと前は何だったかというと、父や母の身体の中に取り込まれた有機物質だったはずだ。これを彼らが、一人の人間として産み落としてくれた。
 そして彼らの一部だった有機物質は、どこから来たのかと言うと、それは彼らが食べたものだったはずだ。きっと鶏肉や野菜や魚だったのだ。

 昔々、最果ての地に立っていた一本の木。その木が朽ち果てて土になり、風に舞い上がったかけらの一部が、今の私の身体の一部になっているかもしれない。短い翼で懸命に飛び立とうとした鳥たちや、薄陽の差す北海を泳いでいた魚たちの一部が、この身体を形作っているのかもしれない。
 だから旅先で、ん? ここは? と、気になるような場所があったら、そこは、もしかしたら私たちにとっての、ゆかりの地なのかもしれない。いや、本当はこの世界全部が、私たちのゆかりの地なのだ。

 そんなゆかりの地で。私たちは全員、一個分の人生を生きる。人生とは何かを、昔はよく考えていた。でも、歳を取るにつれ、それを考えなくなったのは、どうでもよくなったからではなく、考える時間がなくなってきたからだ。
 目の前の一大事に夢中になり、生き抜くだけで精一杯な時に、人生の意味を考えている余裕はなかった。

 これまでの私の人生は多彩だった。変化に富み、いつもいつも、山あり谷ありだった。驚きと失敗の数だけは、人に負ける気がしない。平坦な道が極端に少ない、決して退屈しない人生だった。
 その人生は、はたから見たら危なっかしく見えるかもしれない。いつもドキドキしながら生きていける反面、安定とは程遠い道だ。

 それでも色彩豊かな人生を、うらやむ人もいるかもしれない。若い人たちが影響を受けて、自分もワイルドサイドを行きたいと思ってくれるかもしれない。
 あまりお勧めはしないが、興奮と驚き続きの人生は、どうしたら生きることができるのか。その答えは、とても簡単だ。
 私は、特技を持っているのだ。なぜ特技と言えるかというと、他の人たちがそれをできない時でも、私はいつもそれをできたからだ。私の特技、それは可能性の存在を完全に信じられることだ。

 独りの夜にも、眩しい朝にも、必ず、それはあった。海辺の町にいても、故郷にいても、それは必ず私のとなりにあった。子供にも大人にも、金持ちにも貧乏人にも、それは等しく使えるものとして存在している。
 生きている限り、可能性がなくなることは絶対にない。いつ、いかなる時も、どんな場所でも、それは光り輝いている。

 私たちは、何かが不可能だと言うことはできない。なぜならまだ試していない方法があるかもしれないからだ。できないかもしれない。でも、できるかもしれない。

 だからどんな試みも、それが不可能であるということを証明するのは、不可能なのだ。

※本稿は序章「可能性」より転載しました
(てらお・げん バルミューダ社長)
波 2017年5月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

寺尾玄

テラオ・ゲン

1973年生まれ。17歳の時、高校を中退。スペイン、イタリア、モロッコなど、地中海沿いを放浪する。帰国後、音楽活動を開始。大手レーベルとの契約と、その破棄を経験し、バンド活動に専念。2001年、バンド解散後、ものづくりの道を志す。工場に飛び込み、設計、製造について独学で習得。2003年、有限会社バルミューダデザイン設立(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。同社代表取締役社長。

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