老舗の流儀―虎屋とエルメス―
1,760円(税込)
発売日:2016/10/18
- 書籍
- 電子書籍あり
虎屋500年、エルメス180年——
過去の挑戦の連続に、現在(いま)はある。
「エルメスのライバルを強いて挙げるならば虎屋」。この言葉から始まった、虎屋17代目とエルメス本社前副社長の対話。会社が長く続く理由とは? 働くことの意義とは? パリ本店「エルメス・ミュージアム」や和菓子を研究し紹介する「虎屋文庫」、それぞれの工房まで。当事者が案内する、最先端を走り続ける企業の舞台裏。
流行に惑わされない
すべては職人の経験からはじまる
日々の生活の中に発想は生まれる
「無視する」技術
「会社が良くなる」とは
「会社の常識」と「社会の常識」との乖離
リーダーシップは毎日の発信から
勘違いをしているのは誰?
「ジョブ・ディスクリプション」
優秀な販売員は優秀な店長になれるのか
変わらないことは、変わること
女性の立場の日仏比較
女性の「活用」と大根のしっぽ
まずは「やっちゃう」
発言しないことは存在していないこと
国はなぜあるのかを突き詰める
「虎屋文庫」という存在
和菓子は日本人のライフスタイルと結びついている
必然性なんて要らない
裏切ってはいけない
パリ店は虎屋に教えてくれる
「日本にも虎屋はあるの?」
虎屋がパリに店を持つことの意義
トラヤカフェをやってみて
日本語の素養を身に付けたい
パリのサイトーさんの生活
クロカワさんの社長な一日
贈りました、の形骸化
行事の多過ぎる日本
ものづくりの原点
世界の老舗企業はつながっている
日本人は手で考える
技術をオープンにする必要性
フランスから和菓子を学びに来る人がいる
若い人に「やらせる」
与えられたきっかけをこなしてみる
「やっちゃっていた」経験が土台になる
「最近の若い人は」と言う人の問題点
若者のエネルギーをどこかで活かす
勘で判断することが大事
会社の存続の目的
みんなの前で怒る
幸せに働くために何が必要か
作っている人の話を聞いておく
男は楽をするとダメになる
服装のルールをはきちがえない
前に逃げている
羊羹を世界へ!
商品から物語へつなげていく
お互いの道理を確認する
これからの目標
「日本発」を創る 齋藤峰明
おわりに 川島蓉子
書誌情報
読み仮名 | シニセノリュウギトラヤトエルメス |
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発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判 |
頁数 | 232ページ |
ISBN | 978-4-10-350451-1 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | 実践経営・リーダーシップ |
定価 | 1,760円 |
電子書籍 価格 | 1,408円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/04/14 |
書評
“挑戦の連鎖”の先に老舗は存在する
「革新という言葉を、最近は使わないようにしています」、「イノベーションという言葉も同様ですよね」――言い合っている二人は、老舗である虎屋の十七代を務める黒川光博さんと、エルメス本社前副社長の齋藤峰明さん。両社が築いてきた歴史は、幾多の革新があってこそのこと。それを否定するような発言に、一瞬耳を疑った。
黒川さんは、五〇〇年に及ぶ和菓子の老舗を率いる経営トップ。伝統に甘んずることなく「トラヤカフェ」、「とらや東京ミッドタウン店」をはじめ、数々の挑戦を積み重ねてきた。一方、フランスの高級ブランド、エルメスの本社副社長を務めてきたのが齋藤さん。高校卒業後に単身パリに渡り、日本でエルメスジャポンの社長を担った後、パリ本社で経営陣を務めた。
冒頭の話には続きがある。聞けば、革新とは本来、軽々しく使う言葉でなく、歴史に刻まれるほどの大きな変化に付されるもの。ここ数年、革新やイノベーションという言葉が氾濫し、本来の意味が希薄化している。だから、あえて使うことを控えているとのこと。伝統として続けてきた意義を重々理解した上で、そこに磨きをかけるために、新たな挑戦を続けていく。それが価値につながっていくことが当たり前ととらえ、実践してきたのだ。老舗を率いてきた視座から見える、本質を突いた視点と腑に落ちた。
『老舗の流儀―虎屋とエルメス―』は、そんな二人の対話をまとめたもの。「会社とはなにか」「働くことの意義」「おしゃれとは」「女性が活躍すること」など、さまざまな話題が繰り広げられる。対話は、東京、パリ、御殿場(静岡)、そしてまた東京、と場を変えて続いた。長年にわたり、両者とお付き合いのある私が、僭越ながら、対話の進行と構成を担う贅沢をあずかった。
特に興味をそそられたのは、二人のファッションについての考え方。夏に白麻のスーツをさらりとまとう黒川さん、冬に紫紺色のストールで首元を彩る齋藤さん。表層的な流行を取り入れたり、自らを飾り立てるファッションでなく、独自のスタイルを持っている。こういう装いができる人は、そうはいないと感じていた。ところが「ファッションについて、特にこだわりはない」というではないか。これも深く聞くと、一過性の流行を意味する狭義のファッションではなく、社会に向けて自己表現する広義のファッションにこそ、重きを置いていることがわかった。
ファッションは、身体に密着して日々まとうもの。意識するとしないとにかかわらず、自分自身を表現している。一方でファッションは、身に着けた人と一体化し、人に見られる存在でもある。つまり、ファッションは自己表現であると同時に、評価される対象でもある。自分と社会をつなぐ役割を果たしている。そして、「ファッションは礼節の基本をなすもの」という言葉の裏に、老舗トップが務める特別な役割や、人に見られる存在として自分を律する姿勢を感じた。二人の装いは、伝統に則った礼儀と節度を弁えながら、自身の社会性を表現している。そしてそこに、ちょっとした遊び心が垣間見える。だから“黒川さんのスタイル”、“齋藤さんのスタイル”として記憶に残るのだ。
そんなファッションから会社のあり方にまで、本書を通じて言えるのは、虎屋とエルメス、出生は日本とフランスと異なるものの、共通する価値意識が驚くほど多いこと。その根底には、過去から今にいたる経緯を尊重しながら、今から未来につなげていくための飽くことなき挑戦が続いている。長きに渡って確固たる地位を築き、社会の中で認められてきたわけは、そこにあると確信した。
(かわしま・ようこ ジャーナリスト)
波 2016年11月号より
イベント/書店情報
著者プロフィール
黒川光博
クロカワ・ミツヒロ
「虎屋」代表取締役社長。1943年、東京都生まれ。虎屋十七代。学習院大学法学部を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務を経て1969年、虎屋に入社した。1991年より同社代表取締役社長に。全国和菓子協会会長、全日本菓子協会副会長、一般社団法人日本専門店協会会長等を務めた。著書に『虎屋 和菓子と歩んだ五百年』がある。幼少より親交のあった寛仁親王殿下のご著書『今ベールを脱ぐ ジェントルマンの極意』では服飾談義を展開している。東京在住、一男二女の父。
齋藤峰明
サイトウ・ミネアキ
「エルメス」フランス本社前副社長。1952年、静岡県生まれ。高校卒業後渡仏し、パリ第一(ソルボンヌ)大学芸術学部へ。在学中から三越トラベルで働き始め、後に(株)三越のパリ駐在所長に。40歳でエルメス・インターナショナル(パリの本社)に入社、エルメスジャポン社長に就任。2008年よりフランス本社副社長を務め、2015年8月に退社。シーナリーインターナショナルを設立、代表に就任。フランス共和国国家功労勲章シュヴァリエ叙勲。エルメスでの仕事を語った本に『エスプリ思考~エルメス本社副社長、齋藤峰明が語る』(川島蓉子著)がある。妻、一男二女とパリ在住。