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アクシデント・レポート

樋口毅宏/著

3,410円(税込)

発売日:2017/11/22

  • 書籍
  • 電子書籍あり

史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した著者が満を持して放つ大長篇。

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。しかも今度は一機だけでなく、ブラックボックスが見つからず真相は闇に覆われる。事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる人間模様、政府と企業の体たらく、文化芸能、沖縄・原発の問題、そして隠されたこと。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。

目次
プロローグ
「あなたはいま、底なし沼に足を踏み入れようとしているのですよ」仁徳繁夫(60)
大阪 → 東京420便(1)
「本間クリニックは自動的に最重症の患者の収容先になったのです」室井真菜(32)
「飛行機が墜ちなければ、私は研一の素顔とか、あの家の実像みたいなものを、死ぬまで知らなかったでしょう」鳥谷美智子(29)
「『大洋航空機事故被害者の母』ことY・Sを嵌めろ。罪状は後から決めて構わない」新沼秀夫(42)
「正体をなくすほど酔ったあの人が零しました。「ヒッチコックやないけど、わいは『知りすぎていた男』のようや」」中村すず(32)
「タイムマシーンがあったら一九九五年に戻って、ひとことこう忠告したい」N・N(50)
「真琴は『自分たちは特別な人間じゃない』と言っていた。なのに『普通ではないこと』に巻き込まれてしまった」志島理人(26)
「二歳のときに熱出してそれからだから、目が見えた記憶はないね」美野里健吾(37)
「麻井くんの奥さんが、大学の後輩だった亜沙子だと知ったのは、彼と出会ってから一年後のことでした」佐藤咲(39)
「墜落現場の山中の土をお分けします」大神太水(52)
矢島博美ノート(1)
八菱山
「今でも八菱山は生贄を求めます」佐高俊夫(48)
「世界最大の航空機事故に立ち会えたのに、その現場を見ずして何がブンヤだろうかと。密かに興奮していました」宮谷まさし(30)
「たとえは悪いけどお祭りなんだよ。舞い上がっちゃったんだ、あのときはみんな」井ロ光男(37)
「ひと目見たときからわかったのです。この女は『航空局の影』なのだと」佐塚澄和(46)
「あの航空機事故が起きてすぐに大洋航空から依頼を受けた。私の任務は、遺族を一致団結させないことだった」デビット・“タロウ・ハヤセ”・シェセ(25)
「グルを乗せた旅客機ごと墜落させる計略があったのです」中島洋一(25)
「原発を標的にするしか方法がなかったのです」吉澤尚幸(43)
「乗るはずだった飛行機に乗り損ねたおかげで、命拾いしたのはそのときが初めてじゃなかったから」有本幸平(40)
「『郡司組の核弾頭』いうたらナンバで知らんもんはおらんかった」武久恭介(25)
「おれナ(ス)ターシャがほしい」田山隆(42)
「福島県の沖合にある博物館に秘蔵された。そしてそれは起こった」屍の上に立つもの
矢島博美ノート(2)
大阪 → 東京420便(2)
「『天才子役』って言われていい気になっていたんです」清水えいじ(8)
「なんかちょっとヘンな感じなんですよ、その事故がなかったら、自分はこの世にいないんだと思うと」酒井良人(-1)
「泰幸会に入信してよかったと、心から思っていました」岩崎八千代(58)
「ときどき思うんです。あのまま飛行機に乗っていたほうが、幸せだったんじゃないかと」湯本滋(45)
「兄貴のような人は、警官になるかヤクザになるか、どちらかしかなかった」田中光明(42)
「空港までの道のりで不思議なことが起こりました」内田俊子(37)
「私のほうから、退院と同時に記者会見を開いてもらうよう、お願いしました」山島久美子(16)
「私は菱宮伸子のファン第一号です。シンちゃんのすべてを見つめてきました」穂村千加子(52)
矢島博美ノート(3)
東京 → 沖縄461便
「強烈な皮肉だと思いませんか。『基地はあるけど原発はない』というのは」具志堅武(58)
「全員死亡を確認してから、ヘリコプターは羽音だけを残して行ってしまった」斎藤悦子(26)
「ソミちゃんは大人になったら、いいお母さんになったのに。残念よねえ」浦山眞理子(40)
星雲中学三年生の遺書(全生徒二百五名中、五十五名+教師二名)
「事故があった後、業務上過失致死傷罪の容疑で東京地方検察庁に起訴されました」奈良崎良太(27)
「あの大洋ジャンボ事故はね、東京発沖縄行きの461便を操縦した機長の中無洋介に原因があったんです」山吉文次郎(52)
「われわれ家族への『攻撃』が最も激しくなったのは、政府事故調査委員会による事故原因が発表されてからでした」柴田(中無)幸恵(30)
あの子アヌクウイキガと東京に行かなければカンケー、あの災害もテロも、そしてあんたが聞きたい飛行機の事故もなかったんですネーンタルムン東門満(62)
「不世出の水泳選手に生まれながら、あの子には三つの不幸があった」坂西志功(52)
あたしワーは、旅客機を落とすことにした」東門ヒロコ(22)
「これまであの子が誤解されてきたことを、できるかぎり解くことができたらと思います」坂西蛍子(48)
「私が、何を言いたいか、おわかりですよね」S・M(51)
「『テレビ史上最悪の放送事故』として人々に長く語られることとなる、現場中継の幕が切って落とされました」伊達耕ニ(24)
「急場を凌いできた大洋航空にも、終わりの日が刻一刻と迫っていました」加藤明人(40)
「事故のせいでまるっきり記憶がなくなってしまった私は、頭の中も顔も何もかも、のっペらぼうになってしまったのです」桐島麗美(30)
矢島博美(36)
エピローグ

書誌情報

読み仮名 アクシデントレポート
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 648ページ
ISBN 978-4-10-316934-5
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 3,410円
電子書籍 価格 2,728円
電子書籍 配信開始日 2018/05/04

書評

痛烈かつ的確な社会批判、私は絶賛したいと思う。

森永卓郎

 私はケーブルテレビのナショナル・ジオグラフィックが放送している「メーデー!」という番組のヘビーな視聴者だ。メーデーというのは深刻な事態に陥った時にパイロットが発する緊急事態宣言の言葉で、「メーデー!」は、航空機事故の状況を再現し、原因を追究していくドキュメンタリー番組だ。現在第15シーズンが放映され、各シーズン5~14本のエピソードがあるから、合計140本の作品が作られている。それを7~8回ずつくらい見ているから、私はすでに1000回以上、飛行機の墜落事故を見ていることになる。なぜそんなに夢中になるのかというと、航空機事故の衝撃が大きいからだ。一瞬の不運やミスが、数百人の命を奪う緊張感は、他のテーマでは味わえない。ただ、「メーデー!」は事故調査委員会の公式記録と目撃証言で構成されているので、事故原因が納得できないケースが、いくつかある。その典型が1985年に起きた日航123便の墜落事故だ。公式には、ボーイング社の修理ミスで、飛行中に圧力隔壁が破損して、尾翼が吹き飛んだことが墜落原因とされている。しかし、そうであれば圧力隔壁破損直後に機内で発生するはずの濃い霧が発生していないことや、米軍が墜落場所を即時に把握していたのに、日本政府が墜落現場を特定したのが翌日朝になったことなど、当初から墜落原因に疑問の声が上がっていた。しかし、そうした声や民間が行った事後調査の結果は、見えない力に押しつぶされ続けてきた。だから、本書を読む前は、小説という形を借りて、日航123便の真実を暴こうとしているのかなと思っていたのだが、方向性がほんの少し違っていた。
 阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が重なった1995年、大洋航空の大阪発東京行きと東京発沖縄行きの旅客機が空中衝突し、両機に搭乗していた乗員乗客672人が死亡するという史上最悪の事故が発生したというのが、本書の設定だ。政府は、パイロットの操縦ミスを事故原因と断定するが、1人のジャーナリストが遺族や生存者、事故関係者の証言を集めていくと、そこから日本社会の闇が見え隠れしていくという仕掛けだ。
 ただ、「メーデー!」の場合は、目撃証言を集めた後、事故調査の中心は、フライトレコーダーとコックピット・ボイスレコーダーの分析に移っていくのだが、本書では、フライトレコーダーとコックピット・ボイスレコーダーは発見されないという設定で、最後まで関係者の証言だけで構成されている。しかも、証言を一つのストーリーとして、再構成するのではなく、インタビューをそのまま掲載するという形を採っている。だから、証言を順不同で読んでいっても、さほど支障はない。そして、その証言のなかに、本当の事故原因と、その背後にある日本社会の闇がチラついて見えるのだが、私は、著者が書きたかったのは、名探偵が事故原因を追究していくような推理小説的サスペンスではなく、日本社会の闇を批判することだったのではないかと思う。
 本書は、基本的に航空機事故で人生を一瞬で破壊された人たちとその関係者たちの人間模様を描くドラマになっているのだが、彼らを取り巻く社会の分析と批判が同時に描かれている。時には、事故とは関係のない社会批判が延々と繰り返されるところもある。しかも、そこに登場する人物は、ほぼ実名だ。林真理子に始まって、正力松太郎から安倍晋三までが登場する。しかし、その名前は、事故関係者が証言をするときに、事故の話をする前提として、あるいは単なる雑談のなかで、名前を使うという形式を採っている。うまいことを考えたなと思う。これだと、小説に登場する架空の人物が、架空の社会評論を行っているだけだから、名誉棄損にならない。
 もちろん、事故関係者たちが行う「社会評論」は、著者自身の社会の見方そのものなのだろう。沖縄の問題にしても、原発の問題にしても、証言者が語る社会評論は、自由、平等、平和を重視するリベラル思想に一貫して裏打ちされているからだ。
 実は、著者の配偶者は、テレビのコメンテーターとして活躍する三輪記子弁護士だ。私は数年間、番組でご一緒していたのだが、男の影をまったく感じさせなかった彼女がなぜ突然結婚したのか。本書を読んで、それが分かった気がする。著者のリベラル思想に共鳴したからだろう。本書はフィクションだが、本質はノンフィクションだ。痛烈かつ的確な社会批判を、私は絶賛したいと思う。

(もりなが・たくろう 経済アナリスト)
波 2017年12月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

樋口毅宏

ヒグチ・タケヒロ

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ヶ谷』で小説家デビュー。小説作品に『民宿雪国』『日本のセックス』『雑司ヶ谷R.I.P.』『二十五の瞳』『テロルのすべて』『ルック・バック・イン・アンガー』『愛される資格』『甘い復讐』『ドルフィン・ソングを救え!』『太陽がいっばい』が、また新書『タモリ論』、コラム集『さよなら小沢健二』、『おっぽいがほしい! 男の子育て日記』の著作がある。

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