
男どき女どき
605円(税込)
発売日:1985/05/28
- 文庫
- 電子書籍あり
人は毎日小さな感銘に助けられて生きている。最後の小説とエッセイを所収、人生の〈大切な瞬間〉を綴った作品集。
何事も成功する時を男時、めぐり合わせの悪い時を女時という――。何者かによって台所にバケツごと置かれた一匹の鮒が、やがて男と女の過去を浮かび上がらせる「鮒」、毎日通勤の途中にチラリと目が合う、果物屋の陰気な親父との奇妙な交流を描く「ビリケン」など、平凡な人生の中にある一瞬の生の光芒を描き出した著者最後の小説四篇に、珠玉のエッセイを加えた、ラスト・メッセージ集。
ビリケン
三角波
嘘つき卵
鉛筆
独りを慎しむ
ゆでたまご
草津の犬
花束
わたしと職業
故郷もどき
日本の女
アンデルセン
サーカス
笑いと嗤い
伯爵のお気に入り
壊れたと壊したは違う
無口な手紙
甘くはない友情・愛情
黄色い服
美醜
書誌情報
読み仮名 | オドキメドキ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-129404-9 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | む-3-4 |
ジャンル | 文学賞受賞作家 |
定価 | 605円 |
電子書籍 価格 | 440円 |
電子書籍 配信開始日 | 2013/02/01 |
コラム 映画になった新潮文庫
「今年の目標は趣味を持つこと」と言ったら、友人に「そんなことを言っている時点で趣味が持てない」と笑われました。確かに趣味って探すものでもないみたいです。趣味がないので、取材などで訊かれると困って、苦し紛れに「半身浴です」と答えますが、まあ面白味はないですよね……。
年明け、半身浴をしながら読んだのが向田邦子さんの『
『男どき女どき』の冒頭の「鮒」は、ある日曜日、何者かが塩村の家に鮒を入れたバケツを置いていくところから始まります。十一歳になる息子・守の主張で飼うことになりますが、塩村はこの鮒は捨てた愛人が飼っていたものだと気づいています(背びれの特徴でわかる)。鮒は愛人の部屋に来ていた塩村のあれこれを見ていたはずで、塩村は妻がいるのに気づかず、「鮒吉(愛人がつけた名前)、お前、いい度胸してるなあ」と呟いて、「名前、鮒吉にしたんですか」と言われ肝を冷やします。
翌週の日曜日、塩村は守を連れて愛人のアパートまで散歩に出ます。が、どうやら引越した様子。愛人と通った喫茶店へ寄ると、マスターが挨拶しようとしますが、塩村が子連れなのを見て、手を下ろします。店を出る時、「『元気なのかなあ』/金を払いながら、塩村がたずねた。/あの人は、という主語が抜けているが、その辺は主人にも通じたらしい。/『まあ元気にやってるんじゃないかね』」。そして父子が家に帰ると、鮒吉は水槽に浮かんでいました。守は「ママ、洗剤かなんか入れたんじゃないの」と訊いて――という短篇小説。
ここでもやはり息子は(ひょっとすると母も)父の浮気に気づいていながら、男同士で庇っているようにも読めます。同時に、男の未練たらしさも浮かび上ってきます。
と、この先は別の話。この本は向田さんが飛行機事故で亡くなられた直後に作られたもので、小説の他に何本かのエッセイも入っていますが、私が「ああー」と思ったのは「独りを慎しむ」という一文。向田さんは独り暮しを始めて、料理をフライパンからそのまま食べたり、坐る形も行儀悪くなったり、下着姿で部屋を歩き回ったり、「あきらかに居汚なくなっていました」。
私もずっと独り暮しで、フライパンの経験こそありませんが、鍋からラーメンを食べたことはあるし、お化粧の落し方もいい加減になりました。向田さんは「若々しい
(はら・みきえ 女優)
波 2017年2月号より
著者プロフィール
向田邦子
ムコウダ・クニコ
(1929-1981)1929(昭和4)年、東京生れ。実践女子専門学校(現実践女子大学)卒。人気TV番組「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など数多くの脚本を執筆する。1980年『思い出トランプ』に収録の「花の名前」他2作で直木賞受賞。著書に『父の詫び状』『男どき女どき』など。1981年8月22日、台湾旅行中、飛行機事故で死去。