剣客商売一 剣客商売
825円(税込)
発売日:2002/09/20
- 文庫
- 電子書籍あり
老剣客・秋山小兵衛とその息子・大治郎が悪に挑む!
累計2400万部突破の大人気シリーズ。
勝ち残り生き残るたびに、人の恨みを背負わねばならぬ。それが剣客の宿命なのだ――剣術ひとすじに生きる白髪頭の粋な小男・秋山小兵衛と浅黒く巌のように逞しい息子・大治郎の名コンビが、剣に命を賭けて、江戸の悪事を叩き斬る――田沼意次の権勢はなやかなりし江戸中期を舞台に剣客父子の縦横の活躍を描く、吉川英治文学賞受賞の好評シリーズ第一作。全7編収録。
書誌情報
読み仮名 | ケンカクショウバイ1ケンカクショウバイ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 368ページ |
ISBN | 978-4-10-115731-3 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | い-17-1 |
ジャンル | 文学賞受賞作家 |
定価 | 825円 |
電子書籍 価格 | 616円 |
電子書籍 配信開始日 | 2010/10/22 |
コラム 新潮文庫で歩く日本の町
このコラムの第一回に書いたように、時代小説は読んできませんでした。それが大河ドラマ「花燃ゆ」に出演している縁で『志士 吉田松陰アンソロジー』を読み、長崎出身者としては馴染みやすい遠藤周作さんの『女の一生』(長崎を舞台に幕末の隠れ切支丹から昭和の原爆・特攻までを扱う)を読み、続けて遠藤さんの代表作『沈黙』も読む、というすごい進歩(?)ぶり。
今回はいよいよ江戸モノ、池波正太郎さんの『剣客商売』です。数冊齧っただけで言うのもアレですが、これを読んで、時代小説にハマる人が多いのも納得できました。憧れの世界に浸れる、ということですね。
剣を究めた老剣客・秋山小兵衛、やはり剣の道を志す一人息子・大治郎、小兵衛の再婚相手になる
とりわけ魅力的なのは小兵衛で、剣は無双だし(汗をかくのも自由自在で相手を油断させたり、空中高く跳んだりする。ほとんど卑怯な感じがするくらい強い)、おなごにも甘いし、金払いもきれいだし、欲もないし(ただし好奇心は旺盛)、酒もイケるし、季節を五感で味わうし、息子へは表面は厳しくとも深く心にかけているし、何より生活を楽しんでいるご老人だ。こ、これが噂に聞く〈江戸の粋〉ってやつですか? いやー、梅酒くらいしか呑めない下戸宮崎ですが、今度の雨の日は小兵衛みたいにスイッとお酒を呑みたくなりましたよ。例えば田螺の味噌汁をアテにして。
大治郎は剣一筋の堅物で、小兵衛のようには食べ物に拘りませんが(第一、自分の道場はあっても厳しすぎて門人が集まらず、お金がない)、そこはあの父の息子なので、近所の百姓の女房が作ってくれた旬の田螺の味噌汁に、「『うまい』/と、秋山大治郞がつぶやいた。/
やがて大治郎はお酒も覚え、剣もそっちも父親に少しずつ近づいていきます。小柄な小兵衛とたくましい大治郎は、「スターウォーズ」のヨーダとルーク・スカイウォーカーの師弟関係のようでもあります。
コンクリートだらけの東京もすぐ下には小兵衛が歩いた町があるし、よく意識すればまだ同じ風景が残っているのも分ります。この九月、私は明治座(すぐ横をおはるに舟を漕がせて小兵衛が行き来した隅田川が流れている)の舞台に出るので、時間を見て下町方面を散策する予定。あっ。おはると三冬という、名前の通り対照的だけれど共に素敵な女性たちに触れる余裕がなくなりました。
(みやざき・かれん 女優)
波 2015年9月号より
著者プロフィール
池波正太郎
イケナミ・ショウタロウ
(1923-1990)東京・浅草生れ。下谷・西町小学校を卒業後、茅場町の株式仲買店に勤める。戦後、東京都の職員となり、下谷区役所等に勤務。長谷川伸の門下に入り、新国劇の脚本・演出を担当。1960(昭和35)年、「錯乱」で直木賞受賞。「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」の3大シリーズをはじめとする膨大な作品群が絶大な人気を博しているなか、急性白血病で永眠。