そうか、もう君はいないのか
605円(税込)
発売日:2010/07/28
- 文庫
- 電子書籍あり
後に残された夫の心を颯と掬う、なんと簡潔にしてストレートな切ない言葉だろう。児玉清さん絶賛! ベストセラー待望の文庫化。感涙の回想記。
彼女はもういないのかと、ときおり不思議な気分に襲われる──。気骨ある男たちを主人公に、数多くの経済小説、歴史小説を生みだしてきた作家が、最後に書き綴っていたのは、亡き妻とのふかい絆の記録だった。終戦から間もない若き日の出会い、大学講師をしながら作家を志す夫とそれを見守る妻がともに家庭を築く日々、そして病いによる別れ……。没後に発見された感動、感涙の手記。
書誌情報
読み仮名 | ソウカモウキミハイナイノカ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 176ページ |
ISBN | 978-4-10-113334-8 |
C-CODE | 0195 |
整理番号 | し-7-34 |
ジャンル | エッセー・随筆、文学賞受賞作家、ノンフィクション |
定価 | 605円 |
電子書籍 価格 | 506円 |
電子書籍 配信開始日 | 2021/09/24 |
コラム 新潮文庫で歩く日本の町
九月に東京・明治座で始まった舞台「三匹のおっさん」も(松平健さん、西郷輝彦さん、中村梅雀さんが〈おっさん〉たちです)、この「波」が出る頃には名古屋と大阪の公演も終り(大阪・新歌舞伎座公演は十月三十一日が千秋楽)、十一月は九州、博多座です。私は梅雀さんの娘・早苗役。
稽古では演出の田村孝裕さんからの「人間って多面的じゃない? 『早苗はこんなことはしない』とか決めなくていいんだよ、もっと自由に動いていいから」という言葉が、(あっ!)といろんなことが見えてくる大収穫でした。なるほど、舞台に限らず、小説にしたってどれも「人間は多面的なものだ」と言い続けているようなものです。
明治座公演も半分を過ぎたあたりから、ようやく久々に本屋さんへ出かける心の余裕ができました。次の名古屋にゆかりの本を――ということで選んだのは城山三郎さんの『そうか、もう君はいないのか』。
これは奥さま(容子さん)との出会いから別れまでを描く回想記です。お二人とも名古屋の方で、東京の大学へ通っていた城山さんが帰省中に図書館へ行くと、なぜか臨時休館。そこへ容子さんが現れます。
「とまどって佇んでいると、オレンジ色がかった明るい赤のワンピースの娘がやって来た。くすんだ図書館の建物には不似合いな華やかさで、間違って、天から妖精が落ちて来た感じ。/『あら、どうして今日お休みなんでしょう』/小首をかしげた妖精に訊かれても、私にも答えようがない」。
いくら一目惚れでも、
私が憧れたのは夫婦旅のあれこれ。取材その他で国内外に旅することの多い城山さんが誘うと、容子さんはいつだって二つ返事でついてくる。でも行く先の国や土地に興味は全くなさそうなので城山さんが不思議がると、「だって、家事しなくていいんですもの」。そんな無邪気な旅を重ねるうち、やがて容子さんは重い病に罹り……。
城山さんは、「容子の死のおかげで」長篇小説『指揮官たちの特攻―幸福は花びらのごとく―』を書き上げ、あとはご自身が亡くなるまで『そうか、もう君はいないのか』をゆっくり書き続けました。そのあたりの事情をお嬢さまが書かれたあとがきは涙なしには読めなくて、そこまで含めての一冊だという気がします。
名古屋公演の合間にお二人が出会った図書館跡へ出かけてみると、すっかりモダンな複合施設に様変わりしていましたが、カップルがベンチでくつろいだり、子供たちが池で遊ぶ清々しい場所でした。実は城山さんには私の祖父をモデルにした『盲人重役』という作品があります。この秋、読んでみます。
(みやざき・かれん 女優)
波 2015年11月号より
著者プロフィール
城山三郎
シロヤマ・サブロウ
(1927-2007)名古屋生れ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。一橋大学を卒業後、愛知学芸大に奉職し、景気論等を担当。1957(昭和32)年、『輸出』で文学界新人賞を、翌年『総会屋錦城』で直木賞を受賞し、経済小説の開拓者となる。吉川英治文学賞、毎日出版文化賞を受賞した『落日燃ゆ』の他、『男子の本懐』『官僚たちの夏』『秀吉と武吉』『もう、きみには頼まない』『指揮官たちの特攻』等、多彩な作品群は幅広い読者を持つ。2002(平成14)年、経済小説の分野を確立した業績で朝日賞を受賞。