世の中と足並みがそろわない
649円(税込)
発売日:2023/11/29
- 文庫
- 電子書籍あり
強すぎるこだわりと独特なぼやきが癖になる。愛すべき不器用芸人の、ユニークな日常!
女性を下の名前で呼べない。「二子玉(にこたま)」と言いたくない。可愛げある「隙(すき)」が作れない。そして、この本のタイトルがやっぱり気に入らない――。世の中と折り合えない「不器用すぎる芸人」ふかわりょうが、日頃から抱く些細な違和感をタネに縦横無尽に持論を展開。ここで出会ったのも何かの縁。その独特なこだわりに呆れつつも、くすりと共感してしまう、歪(いびつ)で愉快なふかわワールドをご堪能あれ。
放題地獄
サマーベッド’94
La Mer(ラ・メール)
芸人よ、ピュアであれ
アオハル白書
女に敵うわけない
男の敵
蓄電おじさん
浮力の神様
ポール・モーリアの微笑み
沈黙の音
波子のため息
まわれ! ミラーボール
わからないままでいい
溺れる羊
アメリカンコーヒーを探して
わざわざの果実
拝啓 実篤様
二色の虹
La Vie en Rose(ラ・ヴィ・アン・ローズ)
隙の効用
書誌情報
読み仮名 | ヨノナカトアシナミガソロワナイ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮文庫 |
装幀 | 川原瑞丸/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-104781-2 |
C-CODE | 0195 |
整理番号 | ふ-62-1 |
ジャンル | エッセー・随筆、ノンフィクション |
定価 | 649円 |
電子書籍 価格 | 649円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/11/29 |
インタビュー/対談/エッセイ
足並みがそろわなくたって、いいんじゃない
『世の中と足並みがそろわない』というエッセイ集のタイトルそのまま、小学校に入学したその日から約40年間、世間との隔たりを見つめ続けてきたふかわりょうさん。そんなふかわさんを「尊敬している」と公言するカズレーザーさんと、初めての対談が実現しました。芸人という枠におさまらない活躍をみせているお二人の“足並みがそろった”相思相愛トークをお楽しみ下さい。
お笑いの教科書に載っていないこと
ふかわりょう(以下、ふかわ) 前から、カズさんと一度ゆっくりお話ししてみたかったんです。僕はカズレーザーという芸人さんは、テレビに出始めたときから今までずっと、お笑いの教科書に載っていないことをまき散らしている人だと思っていて。
カズレーザー(以下、カズ) え、初っ端からどういうことですか!?
ふかわ 僕個人の感想になりますが、今注目されている「第七世代」と呼ばれる芸人さんたちは、お笑いの教科書に載っていること、例えばボケとツッコミの役割分担や、バラエティ番組で話をするときの“お約束”などをしっかり自分のなかで吸収した上で、自分たちなりの新しいカラーを出して活躍していると思うんです。でもカズさんは金髪に上下真っ赤な洋服というキャラクターも含めて、芸人という一つのくくりを破壊して活躍の場を広げる、まったく新しい存在だと感じています。
カズ いきなりこんなに褒めて頂けるなんてめちゃくちゃ嬉しいから、ここで対談終わらせちゃってもいいですか?(笑)
ふかわ まだ帰らないで(笑)。カズさんの話には続きがあって。僕自身もへそまがりなところがあるので、結果が上手くいくかどうかは別として、これまでも今でも、教科書にないことをしたいという志で仕事をしてきた。だから、勝手にシンパシーを感じているという話なんです。
カズ 実は、愛の告白だったんですね(笑)。それにしても、ふかわさんがそんなふうに思って下さっているなんて感激しました。以前テレビで共演させて頂いたときにもお伝えしましたが、ふかわさんの仕事はふかわさんしかできない仕事ばかりで代わりがいない。大げさじゃなく、ふかわさんの生き方を僕は尊敬しています。
ふかわ なんか無理やり言わせちゃったみたいだけど(笑)。
カズ でもこれは本音で、お笑いの教科書に載っていないことにトライするという意味では、多分僕は、ふかわさんのコピーをやっているんです。今回のご本で「ポスト出川」事件の詳細を拝読し、改めてその思いを強めました。
ふかわ あ、「ポスト出川」事件!
カズ ふかわさんがデビューされて10年後の30歳の頃、出川哲朗さんから「ポスト出川は、お前だからな」と言われたことをきっかけに「いじられ芸」から今のお仕事へ舵を切ったこと。その結果、芸人としての仕事は減ったけれど、情報番組のコメンテーターやMCを務めるようになったということが、今の自分の状況とリンクして、とても共感しました。
ふかわ 正直言うと、あのエピソードは、文章で読むとちょっと格好良く感じられるかもしれないけれど、怖くて逃げだしただけなの。震えて逃げただけ……。
カズ 出川さんの後継者って大役すぎますもんね(笑)。それに、もしもあのままふかわさんが「いじられ芸」を極めていかれていたら、例えばロッチの中岡(創一)さんの現在の活躍はなかったかもしれないわけですから、お笑いの歴史が大きく動いた瞬間だったとも思います。
曖昧さがコンプレックス
ふかわ いずれにしても僕は「ポスト出川」にはなれなかったと思っているのですが、舵を切ったことで、芸人の仕事以外に、情報番組のMCやコメンテーター、DJといった音楽活動、今回のエッセイ集のように文章を書くことなど、色々とやらせて頂いています。でも同時に、立ち位置がぼやけて、活動がとっちらかってしまっているとも言えて、それがコンプレックスでもあるんです。だから“カズレーザーランド” をしっかりと築けているカズさんが羨ましい。僕のは「とっちらかりランド」。
カズ なんですか、その命名(笑)。僕はコメンテーターとクイズの分野にどんっとまとめて土地を買っているからなんとなく地主っぽく見えるだけで、トータルの面積で考えると確実にふかわさんの方が広いですよ。実際のお金持ちも一箇所にまとめてというより、国内あちこちに土地を買うものらしいですし。
ふかわ 飛び地は嫌なのよ、ちゃんとまとめたいのよ(笑)。
カズ 飛び地で持っていた方が税金も安いって聞きますよ。
でも、曖昧な存在であることがコンプレックスという気持ちは、僕も同じです。僕は「メイプル超合金」というコンビを組んでいますが、コンビネタや漫才でブレイクしたわけではありません。僕の場合、お笑いの世界独特のルール、例えば先輩後輩の上下関係って厳しすぎじゃない? みたいなスタンスや、若手なのにバラエティで全然緊張しないですが何か? といった、カウンターパートとしてのお笑いで世間に受け入れられた面が大きいんです。だからお笑いの王道である「ネタ」で勝負している芸人さんに、単純に憧れています。
ふかわ カズさんもそうなんだ。芸人としてデビューしている限り、王道で活躍している人へのコンプレックスは消えなくて当然ですよね。10年以上前に僕がコメンテーターを始めた時には、世間もだけど、芸人さんからも「お笑いを捨てたのか!」って白い目で見られました。
カズ 当時はコメンテーターをする芸人なんていなかったですもんね。ふかわさんが先駆者として切り拓いて下さったから、僕なんかは楽なもんでした。
ふかわ 「ネタ」の話で言えば、僕の場合、「芸人たるや、ネタを続けてなんぼ」という風潮に対して、色々な価値観を提示したいという意味でも、どこかで抗いたいと思う自分がいました。だから周りからどう見られても良かったのですが、それでも、あまりに多くの人から批判されたので、「お笑いを捨てた」という意識が肌感覚として今も残っているくらいです。
カズ 僕はふかわさんがいじられまくっていた「内村プロデュース」が大好きで、今もDVDをよく見るくらいなのですが、自分が芸人という同じ立場になったとき、当時のあの座組――MCの内村光良さんを筆頭に、さまぁ〜ずさん、出川哲朗さん、有吉弘行さんといった錚々たるメンバーのなかで、いじられ役に徹して笑いをとるふかわさんの立ち位置は、僕には到底マネできないと痛感しました。そんな強烈な「芸人」をやっていたから、なおさら「え、コメンテーター!?」と思われたのかもしれませんね。
ふかわ カズさんのクイズで言えば、ひと昔前は、「クイズで間違えるのが芸人さんの役割」だったわけだから、「内P」のレギュラー放送から15年以上経った今、芸人の仕事の幅はかなり広がったんだなぁ。
タモリさんと所さんの存在感のある軽さ
ふかわ 46歳という年齢のせいかもしれませんが、最近はテレビに出ても、「絶対に爪痕を残そう」ではなくて、「爪跡を残さないでいよう」と、時にふかわりょう色は消して、なんとなくその場を漂う存在でいるように意識しています。
カズ 僕も同じです。
ふかわ え、ちょっと! 悟るのが早いよ(笑)。
カズ 36歳で悟っちゃいました(笑)。そもそも僕は「自分はお笑いで天下はとれない」と意識した上で芸人を始めています。だから「どうやったらテレビに出られるか」を考え、テレビに出られた後は、「どうやったらバラエティ番組のひな壇に残れるか、テレビに出続けられるか」を考えてきました。
ふかわ ゴールが「テレビ」なんですね。
カズ そうなんです。だから、漫才で僕がボケて相方の安藤なつさんがツッコむ、あるいはその逆の時よりも、バラエティ番組でMCの人がツッコむ時の方が、はるかに大きな笑いが起きることに気が付いて、二人だけで成立させる世界を作る漫才って、僕らには向いていないと思ったんです。だから、漫才以外のことも率先してやる道を選んだのですが、その結果、仕事はどんどん増えていって。
ふかわ なるほど。カズさんがすごいのは、そういう道を選んでも、「あいつなんでテレビに出られているんだよ」と後ろ指を差されない強さがあるところですよ。僕なんて、「ふかわって結局なんなの? ふかわの何が面白いかわからない」ってネットでけちょんけちょんに書かれていますから。
カズ そういう記事って、つい目に入っちゃいますよね。
ふかわ ええ。最初は気になりましたが、最近は「しめしめ、君たちに何が面白いかわかられてたまるか」って思うようになりつつあって……。ある種の“こじらせ”なのかもしれませんが。
カズ というか、何者かわからないって最強じゃないですか!
ふかわ それを言ってくれて、本当にありがとう(笑)。そういうコンプレックスと向き合い悶々としてきた結果、「芸人とは」という枠にとらわれず、これからも好きなこと――自分の心が動くことをやって勝負していくしかないと思えるようになりました。
カズ 確かに、枠組みって壊すために存在しているとも言えますし。
ふかわ その上で、いつかは、タモリさんや所ジョージさんのように、力を抜き浮力だけで芸能界を漂えるようになりたいものです。安心感・安定感がありつつも、存在するだけでその場がすごく軽くなる。おこがましいかもしれませんが、そんな存在に憧れています。
カズ お二人ともお会いすると、お聞きしていた以上に軽やかでいらっしゃり、僕も驚きました。だから、ふかわさんがタモリさんについて書かれたエッセイのタイトルが「浮力の神様」だったのも絶妙だと思いました。それこそお二人とも、「何者かはわからない」最強の存在ですよね。
ふかわ 安心して下さい、カズさんも近い将来、そういう唯一無二の存在になります。
カズ え!? またしてもどういうことですか?
ふかわ わかりやすくクイズ番組で言えば、これまでも芸人に限らず、俳優や歌手など様々なジャンルの芸能人が出演する椅子が用意されていました。今、その「芸人の椅子」にカズさんが座っている。でも、そんな「芸能人の椅子」が置かれていない場所に、カズさんは新たに椅子を置きそうな気がしているんです。
カズ フジテレビの取締役とかですか?
ふかわ そこは既に、立派な方が座っていらっしゃいますから(笑)! 何と言うか、「そういう立ち位置があったか」と誰もが驚くような椅子です。
カズ それは絶対に探さないといけないですね。プレッシャーだなぁ。
ふかわ タモリさんや所さんが唯一無二の立ち位置を築かれたように、意図して見つかるものではないような気がしています。自分で言うのもなんですが、僕の未来予想って当たりますよ。自分の未来だけはぼんやりとしているけど……。
カズ もし仕事が減ったら、椅子なかったじゃないですか! って抗議しますからね(笑)。
ふかわ いやいや違います、仕事量の増減ではなくて存在価値のことなんです。ある人が言っていて印象的だったのが、例えば漫才で笑いをいくつとったか、「数」も一つの指標だけれど、たとえ1回しか笑いが取れずとも、その1回がまったく新しい角度で生まれた笑いならばそれは素晴らしいことだよね、という。
カズ それじゃ、ますますプレッシャーがかかるじゃないですか。
ふかわ カズさんだからこそ、僕は期待しているんですよ(笑)。
世の中と足並みがそろわない?
ふかわ カズさんは読書家として知られていますが、文章を書かれたりはしないんですか?
カズ (2020年)10月末に『カズレーザーが解けなかったクイズ200問』(マガジンハウス)というクイズ本を初めて出版しました。自作のクイズとその解説を書いたものなのですが、起承転結のあるエッセイは書いたことがありません。多分あまり得意でない気がしています。
ふかわ 僕の場合、今回コロナ禍がきっかけで執筆したということもあるのですが、その時に自分自身とじっくり向き合ってみて、つくづく自分には「仲間」がいないなと感じました。ちょっとした違和感や自分では些細だと感じるこだわりを、同じくらいの熱量を持って語り合える人が、いない。
カズ 友達の少なさについても書かれていましたもんね。
ふかわ 人間は本来孤独で、一人が当たり前だと思っていますし、職業柄、足並みがそろわないこと自体は決して悪いことばかりではないので悲観してはいないのですが、本当に、人生ずっと隔たりを感じてきたのだなと改めて気がつくと、それなりに考えるところもあり――。
カズ 僕も「世の中と足並みがそろわない」タイプだと思いますが、芸人仲間とルームシェアしているせいか、今のところ日常生活で寂しさは感じていません。自粛期間中も平気でした。
でも本を拝読して感じたのは、ふかわさんって、タモリさん、内村さん、さまぁ〜ずさんなど、長く深く付き合っている方もちゃんといらっしゃるからこそ、ふかわさんの方が心を開かない限り、世の中との隔たりは埋まらないんじゃないかなぁ。
ふかわ 確かに、好きな人はとことん好きで、その他はあまり関わらなくてもいいかなと思っている節はあります。
カズ やっぱり(笑)。「隔たり」で思い出しましたが、10月半ば頃、〈子供の頃から、みんなができることができませんでした。〉と綴った光浦靖子さんのエッセイがツイッターでかなり話題になりました。光浦さんの他にも、例えばハライチの岩井勇気さんしかり、最近では足並みがそろわないけれど支持されている人って結構いますよね。
ふかわ ソロキャンプで話題のヒロシくんとかも、そうですね。
カズ 光浦さんのエッセイが多くの人の心を動かしたように、特にSNS上で顕著ですが、「同調圧力って息苦しい」と表立って言える雰囲気になってきたこと自体が、社会の大きな変化かもしれない。世の中と足並みをそろえることにしんどさを感じている人が集まれば、意外とそろうかも!? なんて考えたりもしました。
ふかわ 孤独が好きな者同士が出会った時、二つの孤独が生まれた、というオチにならないといいけれど(笑)。でも、無意識下で「世の中と足並みがそろわない」という思いを抱えている人もいるでしょうから、このタイトルを書店やネットで見たときに、自分のなかのモヤモヤの正体はこれだったんだ、と思ってくれるかもしれない。
カズ ……ちなみにですが、22編のエッセイの並び順って書いた順番ですか?
ふかわ 違います、並べ変えています。
カズ やっぱり! 読んでいる途中、一番書きたかったのは「溺れる羊」なんだろうなって感じたのですが、最後の「おわりに」まで読んで確信しましたし、タイトルが決まった経緯については、思わず笑ってしまいました。
ふかわ さすがですね、そうなんですよ。「おわりに」に書いた通り、このタイトルすごく嫌なんです。新刊のPRだから「足並みがそろわない」ってことを軸に一生懸命話をしたけれど、本当はこんな話したくないんですよ(笑)。「足並みがそろわなくても大丈夫だよって、ふかわが自己啓発本出した」なんて思われたくないんです。そんな本じゃないんですからね。結局、僕は本を出す出版社とも足並みがそろわなかったというオチなんですよ。
カズ でもちゃんと、タイトルを変更する提案に従って、足並みそろえたじゃないですか(笑)。
ふかわ 少しは大人になりました……。でもそんなことまで見抜くなんて、カズさんのことますます好きになっちゃった。泣きそうです。
カズ ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
ふかわ 僕の愛はしつこいよ(笑)。
(かずれーざー お笑い芸人)
(ふかわりょう お笑い芸人)
波 2020年12月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
ふかわりょう
フカワ・リョウ
1974(昭和49)年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学在学中の20歳でお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いへア・ターバンを装着し、「小心者克服講座」でブレイク。後の「あるあるネタ」の礎となる。以降、テレビ・ラジオほか、DJや執筆など、その活動は多岐にわたる。近著に『スマホを置いて旅したら』(大和書房)、『ひとりで生きると決めたんだ』『世の中と足並みがそろわない』(新潮社)、アイスランド旅行記『風とマシュマロの国』(幻戯書房)などがある。