女による女のためのR-18文学賞

新潮社

選評

第21回R-18文学賞 
選評―友近氏

面白い女

友近

「いい人じゃない」を友近賞に選びました。ストーリーがいちばん素直に、すんなり入ってきたのがこの作品です。
 主人公の女性の“正義感”が、どこか自分と似ているなと思いながら読みました。いや、おそらくこの主人公は、“正義”でやっているという意識があるわけでもなく、ただ思った通りに行動しているという感じなのでしょうが、そこも私と似ています。彼女は、入社して一ヵ月しか経っていない会社で、先月の給料計算がおかしいと、他の新入社員や総務部長の目の前で堂々と主張するような人物です。そういうのって皆なかなか言えないですけど、気づいたことは普通に言える人っていいよな、と思います。
 そして、そういう主人公に惚れる男が出てくるのがまたいい。しかも、なんだかチャラそうなその男が、主人公を「面白い」と言って興味持つだけじゃなく、結婚までするのですから、徹底しています。結局、この男の浮気によって離婚するわけですが……。
 この作品に出てくる人物たちは、タイトル通り、みんな「いい人じゃない」。中でも主人公が、ずっと薄ら笑いしているようなのが好きでした。みんなそうなんでしょ、という目で周りを見ている感じ。
 美沙という友達が、元夫と浮気しているにもかかわらず主人公と付き合い続けているのは、犯人が犯行現場に戻ってくるのと似たような心理かもしれないですね。(芸能リポーターの)井上公造も「何かスキャンダルがある人ほど自分から声かけてくる」って言うてましたし。主人公はきっと、「この女、私の旦那と浮気してるのに私とずっと友達でいるってどういう神経なんやろ」と思いながら、そしてそれをわかっていながら、ずっと美沙と付き合っている。人の弱みを握りながら生き続けている女というのも、やっぱり面白いなと思いました。心臓によくないし、生きていく上では体によくないことのような気がしますけど、近くにいると、毎日観察できるからおもろいんやろな、とか思わず考えてしまいました。
 大賞受賞作の「救われてんじゃねぇよ」も文章がとても読みやすく、なおかつ印象に残った作品です。主人公が先生に「修学旅行は行けません。うち、貧乏やもん」と話すシーンを読みながら、自分が学生だったとき、修学旅行とかに参加しない子ってなんでなんやろ、と思っていたことを突然思い出して、いろいろ考えてしまいました。あの子の家にも、何かがあったのかもしれない、と。娘である主人公と、お母さんとの会話が、とくによかったです。(談)