女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第20回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 大賞・読者賞・友近賞受賞

月吹友香

「ありがとう西武大津店」

宮島未奈(みやじま・みな)

1983年静岡県富士市生まれ。京都大学文学部卒。滋賀県大津市在住。おすすめスポットは近江神宮と遊覧船ミシガン。

受賞の言葉

節目の年に

「ありがとう西武大津店」は一年前には書けなかった小説です。西武大津店の営業終了が発表されたとき、真夏の閉店セールに訪れる人々がみんなマスクを着けているなんて誰が想像したでしょう。
 今から十年以上前のこと。職場の飲み会で、子どもの頃になりたかった職業の話になりました。プロ野球選手、公務員、バスの運転手、幼稚園の先生……。酔っ払いたちが過去の夢を語っていきます。わたしが小説家と答えると、先輩の一人が「今からでもなれますよ」と言いました。当時わたしは一冊の本に衝撃を受けて小説家を諦めたところだったので、笑って受け流しました。
 そんなわたしが再び小説を書きはじめ、憧れだった賞を授かるのですから人生わかりません。あのときの先輩の一言が幸せな呪いとなって、ここまで連れてきてくれた気がします。
 三度目の最終候補でした。受賞を知って喜んだのも束の間、トリプル受賞と聞いて腰が抜けました。これから先、どんな出来事が待ち受けているのでしょうか。皆様からいただいたエールを胸に、粘り強く書き続けていきたいです。
 ちなみに、二十代のわたしにいったん小説家を諦めさせた本とは、三浦しをん先生の『風が強く吹いている』(新潮社)でした。