女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第22回 受賞作品

王冠ロゴ 友近賞受賞

義井優

「ゴーヤとチーズの精霊馬しょうりょうま

義井優

――この度はおめでとうございます。受賞の一報を聞いてどのように思われましたか。

 その日はWBCで日本代表が優勝した日でしたよね。職場の人たちがすごく盛り上がっていたけど、私は喜ぶ余裕もなく、緊張し続けていたのを覚えています。
 実は受賞を知らせる電話がかかってきた瞬間に、足の裏の攣ったことのない場所を攣ったんです。今考えると、何かが引っかかったというサインだったのかもしれません(笑)。痛みをこらえながらも、とても嬉しかったです。
 小説を書いていることは周りに伝えていたので、職場の方々がみなさん「頑張れ」って受賞作が掲載されている「小説新潮」を買ってくださいました。本当にありがたいです。あと驚いたのは、昔からの知り合いの方が、大きなお花を届けてくださったこと。実感を持てずにいた私に「すごいことだよ」と言葉をかけてくださいました。

――「受賞の言葉」では、小学生の頃から作家になることを夢見ていたとお話されていましたが、志すようになったきっかけを教えてください。

 児童小説が好きで、図書館に行っては読み漁る子供でした。小学生の頃に初めて小説を書いたのも覚えています。骨を主人公にしたお話で、誰かに見せることはありませんでしたが、その頃から作家になりたい気持ちはずっと持っていました。
 その後、中学生のときに山本文緒さんの『みんないってしまう』を読んで衝撃を受けました。中学に入学するとき、小学校で慣れ親しんだ友人や先生たちと別れるのが私はとても寂しかったのですが、周囲がすんなりと順応していくのを見て「もしかして人生って、これからこの繰り返しなのか?」と、もやもやしました。そんなときふと本屋さんで目に飛び込んできたのが『みんないってしまう』でした。直球すぎるでしょうか(笑)。でもこの本が、小説が自分の思っていることを言い当ててくれた原体験でした。こんなことが世の中にあるのかと衝撃でしたね。自分の中の解決できないものをどう捉えたらいいか、この本が教えてくれました。
 それがきっかけで更に、自分の思っていることや言葉を文字にしたい欲求が強くなっていきました。山本文緒さん、よしもとばななさん、江國香織さん、森絵都さんが特に好きで、本はいつもそばにありました。本格的に書き始めたのは今の仕事に転職した頃から。将来は作家になりたいと思いつつも、金融系の企業に就職しました。営業に配属されて転勤も経験する中で、書き続けてはいたものの、なかなか形にならず、ふとこのまま流されていってしまっていいのかなと思いました。そこで仕事を辞めて、もう少し時間に融通の効く今の仕事に転職し、物書きを目指すことに本腰を入れようと決めました。

――本腰を入れて最初に書かれた小説はどのような内容でしたか。

 実は最初に書いたのは、小説ではなく脚本でした。会社を辞めるときに、作家になりたいとは言えなくて、脚本家や小説家を目指すとぼかして伝えたんです。ドラマも好きだし、興味もあったので、実際に脚本家のスクールにも通っていたのですが、やっぱり小説も書きたくて、コソコソ書いていました。小説として最初にしっかり書き上げたのは、アイドルになり損ねた女性の話。それから、色々な賞に応募していきました。アイドルの小説は純文学系の賞に応募したのですが、今読むと全然純文学ではなくって。見極めができていませんでした。

――キャラクターやモチーフが印象的な受賞作ですが、どのように考えられたのでしょうか。

 基本的にはテーマに沿って書きたいと強く思っているのですが、キャラクター設定やモチーフから書き始めることも多いです。 今回の作品は「子供おばさん」というワードを漫画で見かけたことがきっかけでした。山本文緒さんの短編小説のタイトルにもありましたが、想像が膨らむ言葉ですよね。あれこれと考えていく中で、日々とてもきちんと働いている女性が、実は何もできない子供おばさんで、逆に幼い少女が家事が完璧にできちゃうおばさんみたいだったら面白いかなということを思いつき、そこから肉付けしていきました。
 ゴーヤとチーズ蒸しパンで精霊馬を作るアイデアも、あまり悩まずに出て来て、きゅうりの代わりにゴーヤを使うというのはわりとすぐに思いついたんです。なすの代わりにチーズというのもなんとなく思い浮かんだのですが、チーズだと割り箸が刺さらなくて精霊馬にならないので、チーズ蒸しパンにしました。

――これからどのような作品を書いていきたいですか。

 書きたいテーマはたくさんありますが、身近なことを書きたいですね。自分の生活の延長線、平行線にあるところを書いていきたい。
 私にとって、自分の気持ちや、世の中を理解するのに必要だったのが小説でした。読んだあと、どうせだったら明るい気持ちになってほしい。それだけではない様々な感情を、呼び起こすものも書いてみたい。ポップな音楽を聞いてすぐに頑張るぞという気持ちになる感覚とは違うかもしれませんが、時間をかけて噛み締めることで、読者の方に何かを感じ取ってもらえるような小説を書いていきたいです。