第11回 受賞作品
読者賞受賞
――このたびはおめでとうございます。受賞の連絡があったときは何をされていましたか?
仕事中で、会社にいました。その前に、最終候補に残ったとご連絡をいただいたときの驚きがすごく大きかったので、受賞したと伺っても実感が湧きませんでした。ふわふわした気持ちで、何がなんだか……。
――この賞に応募なさったきっかけは。
友人から豊島ミホさんや窪美澄さんの小説を薦められて読んでみたら、とても好きになって。彼女から、お二人はR-18文学賞を受賞してデビューしたんだよ、と教えてもらったんです。気になって応募要項を見たら短編の賞だったので、短いものなら自分も書けるかな、書いてみようかな、と。
小学生の頃は小説家になるのが夢で、高校、大学と演劇をやっていたので戯曲を書いたり、大学の文芸創作ゼミで10枚くらいの掌編を書いたりはしていたのですが、勤めてからは3年くらい何も書いていなくて……。今回久しぶりに小説を書きました。まず1作仕上げて、それから1ヶ月後くらいに書いた2作目が「ハロー、厄災」です。休みの日や、仕事に行く前の時間を使って書きました。
――社会人になってからは遠ざかっていた「小説を書く」ことを再開したのには、何か理由があったのでしょうか?
高校を卒業するまで福島の南相馬市で暮らしていました。実家は警戒区域には入っておらず家族もみな無事だったのですが、震災があったことで、自分が生まれ育った場所を書いてみたいと思うようになりました。それと、働き出してからの3年間、仕事以外のことを能動的にやる余裕がなかったのですが、そろそろ何か新しいことを始めてみたいという気持ちもあって。その両方のタイミングがちょうど合ったのかなと思います。
――受賞作「ハロー、厄災」は田舎の高校生を主人公にした作品ですが、こざわさんご自身の高校時代も反映されていますか。
舞台となった田舎は故郷を思い浮かべて書きました。登場人物は完全な創作です。昼は優等生で夜はヤリマンの野口も、実際のモデルがいるわけではありません(笑)。でも、こんな子がいたら楽しいだろうなと思いながら書いていました。書き上がってみると、田舎の悪口を書き連ねたような小説になってしまって、とても親兄弟には読ませられないものに……。
福島から一緒に上京してきて今東京で働いている幼馴染に受賞を知らせたら、「ハロー、厄災」を読んでくれて。高校時代を共有している彼女に「感動した」と言ってもらえたのは嬉しかったです。
――三浦しをんさんと辻村深月さんの選評をお読みになって、どう思われましたか。
主人公の現在時点がいつなのかがあやふやだったり、野口の造形だったり、指摘していただいたすべてがもっともだと思いました。でも予想していたよりもずっとあたたかいお言葉をいただいて、感激してしまいました。自分で読み返しても、「なんでこんなふうに書いたんだろう」とか「誤字脱字多い!」とか突っ込みどころ満載だったので……。
――これからどんな作品を書いていきたいですか。
故郷を舞台にした作品をもっと書いてみたいです。大学で東京に出てきたら、映画も演劇も豊富で楽しくて、もう田舎になんて絶対戻らない、と思っていて、就職するときも故郷に帰るという選択肢はありませんでした。でもいざ小説を書こうとしたときに、東京で仕事をしている人を書くというのはあまりぴんとこなくて。田舎でぐずぐずしている学生を書くことの方が、自分にとって自然でした。田舎にいたときよりも、一度そこを出て振り返っている今の方が、嫌だったことも冷静に見られるような気がします。
あと、「ハロー、厄災」もそうなのですが、不自由だな、なにか足りないな、と苛立ったり、迷ったりしている人を書きたいです。好きであることを誰にも言えないような小説や映画に触れることで、心が慰められたり、助けられたりすることが多々ありました。いつかそういう小説が書けたら、と思います。