村上柴田翻訳堂
ごあいさつ
世の中には実にたくさんの文庫本が溢れておりますが、それでも書店の棚のスペースには限りがあり、毎月押し寄せる新刊に追われるようにして、古い文庫本が静かにひっそりと退場していきます。そのように姿を消していった作品の中には、「この名作が手に入らないというのは間違っているぞ」と苦情を呈したくなるものもあれば、「個人的にはけっこう好きだったんだけど、やはり生き残れなかったか」と淋しく感じてしまうものもあります。そういういくつかの作品を拾い上げ、もう一度何らかのかたちで新刊として復活させることはできないものかと、常々考えていたのですが、同じような思いを抱いていた柴田元幸さんと組んで、今回このようなシリーズを立ち上げることができました。あくまでささやかな企画ではありますが、ぼくら二人が面白く読んだ本を選びました。楽しんでいただければと思います。
村上春樹
これまで二十七年くらい、主として現代アメリカ小説を訳してきました。古典や準古典のすぐれた作品は文庫棚にちゃんとあるのだから、僕は「新しい」ものを訳そう、「まだ知られていない」作家を紹介しよう、という思いで自分でも大いに楽しみつつ仕事をしてきたし、これからもしようと思っています。ただ、気がつくと、文庫棚に並ぶ古典や準古典の顔ぶれは、だいぶ寂しくなってきているみたいです。少し前だったら、みんなが何となく聞いたことくらいはあった作家や作品が、「もう知られていない」になってきている。ならば、そういう本も、現代作家と同じくらい、いまや「新しい」のかもしれない。そう考えて、このシリーズを村上さんと始めます。新しい小説を世に送り出すときと同じことですけど、「こういうのが読みたかったんだ」と思ってくださる方が大勢いらっしゃいますように。
柴田元幸
村上柴田翻訳堂
狂おしいまでに多感で孤独な少女フランキーの日々……。
村上春樹が何度も読み返してきた米女性作家の最高傑作。
発売:2016/04/01 781円(定価)
アルメニア系移民の少年が、貧しいながらもあたたかな大家族ととももに、いま新世界へと歩み出す――。
発売:2016/04/01 605円(定価)
架空の球団の珍道中を描きつつ、アメリカの夢と神話を痛快に笑い飛ばした米文学屈指の問題作が禁断の復刊。
発売:2016/05/01 1,089円(定価)
アメリカへと渡った中国人の苦難を、イマジナティヴに描き尽した全米図書賞受賞作品。
発売:2016/07/01 924円(定価)
軍靴の音が高まる時代をブラック・ユーモアで切り取ったカルト作家の代表的長編を新訳。
2017/05/01 825円(定価)
プロフィール
1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞を受賞。
1954年東京生れ。米文学者・前東京大学教授。翻訳家。『生半可な學者』で講談社エッセイ賞受賞。『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞受賞。トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞受賞。ポール・オースターなどアメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、『ケンブリッジ・サーカス』『翻訳教室』など著書多数。文芸誌Monkeyの責任編集を務めるなど、幅広く活躍中。最新翻訳書は、ポール・オースター『オラクル・ナイト』(2016年1月、新潮文庫)、スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』(2016年2月、白水社)、集英社文庫ポケットマスターピース06『マーク・トウェイン』(編訳)。