新潮新書
国民必読
政治もしくは政局のニュースを見聞きしてイライラしている人にぜひ読んでいただきたい新刊が出ます(つまり、全国民が対象とも言えそうです)。
7月刊『反ポピュリズム論』。著者は渡辺恒雄氏。そう、ナベツネのニックネームで有名な読売新聞主筆の渡辺氏です。世間的には巨人軍のことでコメントしている姿とか、いしいひさいちさんのマンガに出てくるキャラのほうが一般的になっているかもしれません。しかし、渡辺氏は、キャリア60年を誇る超ベテランの政治記者。若い頃から政治関連のシリアスな著作を数多く刊行していました。
執筆の動機について、渡辺氏はこう書いています。
「(戦前の)新聞は、近衛文麿ブームを起こし、大政翼賛会を礼賛し、あの無謀で狂気の大戦に突入、何百万という人間が殺されるのを阻止するどころか、教唆煽動の罪を犯した。
そのような新聞の愚を再現しないために、政治の大衆迎合(ポピュリズム)化する過程でマスコミが利用されて来た経過を分析、評価し、その使命を再確認しておきたかったのである」(「はじめに」より)
政治家の衰弱は誰のせいか。橋下徹氏の持つ危険性とは何か。鳩山・菅首相の大罪とは何か。「大連立構想」はなぜ失敗したか。今でも現役の記者でもある渡辺氏の文章は若々しく、分析は論理的かつ明晰です。「片手をびゅんびゅん振り回しながらやたらと怒っている」という、マンガで作られたイメージだけが脳内にある方が読んだら驚くことを保証いたします。
他の新刊4点もご紹介します。
『防衛省』(能勢伸之・著)は、タイトル通り、防衛省について歴史、問題点、実力等を徹底的に解説した一冊です。防衛省と自衛隊はどういう関係? といった初歩的な疑問から、「武器輸出三原則と武器輸出三原則等の違い」「非武装中立論とは何だったのか」といった深い話まで網羅しています。ちなみに、防衛省と自衛隊は「まったく同一の組織を指している」というのが正解です。
『二世兵士 激戦の記録―日系アメリカ人の第二次大戦―』(柳田由紀子・著)は、力作の戦争ノンフィクション。小説やドラマの題材として取り上げられることが多い、日系二世の兵士たちの全体像が、これ一冊を読むとわかります。アメリカ在住の著者が、存命の元兵士たちに数多く取材しているだけに、話は生々しく、また胸を打ちます。
『いい家は「細部」で決まる』(永江朗+大和ハウス工業総合技術研究所・著)は、家の部品にこだわりまくった一冊。「蛇口の名前の由来は?」「ねじの雄と雌の違いは?」等々、面白いトリヴィアが一杯詰っています。家について真剣に考えている人はもちろん、「タモリ倶楽部」などのマニアックな視点が好きな人にもお勧め。
『さもしい人間―正義をさがす哲学―』(伊藤恭彦・著)は、政治哲学の手法で「正しさ」や「公平さ」について考えるという内容……というと、堅苦しい感じがするかもしれませんが、まったくそんなことはありません。激安居酒屋、生活保護、増税といった最近の話題を取り上げながら、著者が言うところの「低空飛行」の思考で考えていきます。増税をめぐる議論を見ていても、どこかモヤモヤした感じが残りました。そのモヤモヤ感が解消されるような本質的な議論が展開されています。