精霊の守り人
693円(税込)
既刊の最終巻になる『炎路を行く者』が文庫化され、とうとう、これで「守り人シリーズ」全巻が文庫化されたことになります。
めでたいなぁ、と喜んでいたら、なんと、特設サイトをつくってくださるとのこと。とてもうれしいです。ありがとうございます。
偕成社版『精霊の守り人』が出版されたのは1996年。それからもう、20年以上もの歳月が流れました。
大人が手に取りやすいように文庫化をしていただきましたが、漢字を増やしただけで、内容は、偕成社版『精霊の守り人』とまったく同じです。
子どもでも、大人でも、どなたでも楽しめる物語を書きたいと思って書き継いだ守り人シリーズ、通勤や旅のお供にしてやっていただければ幸せです。
上橋菜穂子
上橋菜穂子うえはし なほこ
1962(昭和37)年東京生まれ。川村学園女子大学特任教授。オーストラリアの先住民アボリジニを研究中。著書に、『狐笛のかなた』(野間児童文芸賞)の他に、『精霊の守り人』(野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞、バチェルダー賞)、『闇の守り人』(日本児童文学者協会賞)、『夢の守り人』(路傍の石文学賞)、『神の守り人』(小学館児童出版文化賞)、『天と地の守り人』、『虚空の旅人』、『蒼路の旅人』、『流れ行く者』、『炎路を行く者』、『風と行く者』、『「守り人」のすべて』、『獣の奏者』、『物語ること、生きること』、『隣のアボリジニ』、『鹿の王』(本屋大賞、日本医療小説大賞)、『香君』などがある。2002(平成14)年「守り人」シリーズで巖谷小波文芸賞受賞。2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞。2023(令和5)年「守り人」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。
あなたはラッキーだ。
私たちは、母国語で読める、
しかも私たちが読むべきファンタジーに
ようやく巡りあったのだ。
作家恩田 陸
この作品は、
見知らぬ世界の人間ではなく、
僕らと同じ血の通った
人間の尊厳を描いた作品なのだ。
アニメ「精霊の守り人」監督神山健治
世にもの凄く面白い小説はあっても、
それに加えてもの凄くいい、が重なる小説は
極く極く稀だ。この作品は、きっと
あなたの人生のおおいなる指針となるはずだ。
俳優児玉 清
上橋さんのファンタジーは
世界的な水準に達している。
余計な解説はいらない。
読んでくれれば、それがわかるはずである。
解剖学者養老孟司
守り人たちの物語は、
いつも私に静かな感動と確かな活力とを
与えてくれる。
恰も、丹精込めて醸された大吟醸のように。
作家夏川草介
壮大な大河物語の最終章三部作、特別鼎談を各巻末に収録
こちらからもお読みいただけますバルサ
凄腕の女用心棒。「短槍使いのバルサ」の通り名を持つ。新ヨゴ皇国の皇子チャグムが川に転落したところを偶然助けたことから、彼を守るため、戦うことに。
チャグム
新ヨゴ皇国の第二皇子であったが、兄の死によって皇太子となる。しかし、精霊の卵を身に宿したために、父王から命を狙われ、苦難の運命を辿る。
ジグロ
バルサの育ての親で、天才的な短槍使い。国の陰謀に巻き込まれ、親友の娘を託される。そのバルサを守りながら放浪する。
タンダ
バルサの幼馴染み。薬草師で、呪術師トロガイの見習いでもある。追っ手から逃れるバルサとチャグムを匿う。
トロガイ
当代随一といわれる女呪術師。年齢不詳。バルサやタンダに適切な助言を与え、シュガと情報を交換する。
シュガ
新ヨゴ皇国の星読博士。聖導師の見習いであり、チャグムの教育係。トロガイから呪術も学んでいる。
聖導師
<天道>を修める星読博士たちの中の最高位。長きにわたり帝を導き、新ヨゴ皇国の政治を司ってきた。
帝
新ヨゴ皇国の帝。チャグムの父。しかし、精霊の卵を宿した皇子の身を疎んじ、暗殺を企てる。
二ノ妃
チャグムの母。命を狙われる皇子をバルサに託した。帝から疎まれ続けるチャグムを案じ続ける。
新ヨゴ皇国
カイナン・ナナイの予言を受けたヨゴ皇国の第三皇子ヨゴ・トルガルが民を率いて緑豊かなナヨロ半島に建国した国。〈天道〉を信仰している。都は光扇京。先住民はヤクーと呼ばれていて、トロガイやタンダはその血を引いている。
カンバル王国
国土の大半が、〈母なる山脈〉とよばれるユサ山脈にそって広がっている山国。山脈の地下には、洞窟がクモの巣のように広がる。山国ゆえ穀物の収穫は乏しい。〈青光石〉が貴重な財源である。
ロタ王国
平原が広がる広大な王国。強力な騎馬部隊をもつ。領内にロタの民から忌まれる〈タルの民〉や特殊な技能を持つ〈川の民〉が暮らしている。文化や言語でカンバルに共通する点が多い。
サンガル王国
大小数百の島々を支配している海洋国家。海産物、海運にくわえ農地も豊かだが、南の大陸の脅威にさらされている。王家のカリーナ王女、サルーナ王女をはじめ、女性が政治力を持つ国柄。
タルシュ帝国
南の大陸にある大国。帝国主義で、圧倒的な軍事力を誇る。ヨゴ皇国をはじめとする様々な国々を併呑し、さらに北進を目論む。民族による差別はなく、能力によって出世が望める。
萩尾 「守り人」と「旅人」のシリーズを読んで、本当に感動しました。隣接している異世界が、時間のめぐりも何もかも全く違ってめぐっているという感覚は、物すごくおもしろい。『精霊の守り人』でそれが出てきたときには、私、うわっと思った。あ、格好いいって感じで。もとは児童文学として出版されたということですけど、日本の児童文学でこれほどの衝撃を経験したことがなかったので、本当に驚きでした。
上橋 ありがとうございます。子どもでも大人でも面白い物語をと思って書いているからかもしれません。八十代の読者もおられますし。
萩尾 やはり! だから、おとなにとっても読み応えのある作品だったのですね。例えば、海外作品の『指輪物語』などは、異世界を描いても、読む者にどんっと響いて来るものがあります。日本の児童文学やファンタジー作品も良いのだけど、どこか、「昔話」になってしまう傾向があるようで、何故、日本にはそういう大きな作品が生まれないのだろうかと、以前から残念に思っていたのです。ところが、『精霊の守り人』を読んだ時、現実とは違う異世界の描き方が、とにかく格好良くて、「あった!」という感じでした。
上橋 私も海外の物語が大好きだったからかもしれません。
萩尾 お化けや怪物が生まれる話はよくあるけれど、それが系統立った生命樹みたいなものの中で語られるのがすごく面白い。
上橋 この物語が生まれたとき、重なりあい、支えあっている二つの世界というイメージがあったんです。私たちが生きている世界も、膨大で多様な生態系が支えていますよね。
萩尾 なるほど。その系列では、私は宮沢賢治がすごく好きなんです。その後、続く作家がいないと思っていたのですが、上橋さんが登場して、嬉しかったです。
上橋 ありがとうございます。でも、小野不由美さんとか、荻原規子さんなど、こういう物語を書かれる作家はおられますよね。
萩尾 私も、大好きです。壮大な作品を書かれているところが共通していますね。
上橋 同世代なので、もしかしたら、同じような作品に影響を受けてきたのかもしれません。漫画では、萩尾先生、竹宮惠子さん、山岸凉子さん、手塚治虫さんを読んでいた世代ではないでしょうか。
萩尾 確かに、通じるものがあるのかもしれませんね。
上橋 私は、子どもの頃から、生活の匂いがするものが好きでした。特に異国の生活の話は大好きだったんです。
萩尾 だから、何を食べて何を着て、どこで寝て、どんなふうに物を修理するかということなどが、リアルに描写されているのですね。
上橋 それは、文化人類学のフィールドワークでの経験も関わっているのかも。オーストラリアの砂漠でキャンプしたり、夏には四十度以上の気温も経験していますし、狩りに行ったり、原野で寝たり、獲物の解体にもつきあってますし。
萩尾 経験の全てが活かされている訳ですね。
上橋 でも、先生の作品もそうですよね。『トーマの心臓』でも『ポーの一族』でも、読んでいる間、私はドイツやイギリスの暮らしの香りをかいでいました。「グレンスミスの日記」なんてもう、大好きです! 『11人いる!』などもそうですが、先生は、あの頃すでに、多文化的な世界を描いておられたんですよね。しかも、横軸だけでなく、歴史という縦軸を書いておられた。
萩尾 そう、私は、遺跡などは、すごく不思議で、好きですね。昔のものが残っていて、もう人がいないというのが。ある文明が栄えては滅び、またちょっと違うのが栄えては滅び、文字も少しずつ変わっていく。すごく不思議というか、おもしろい。
上橋 私もそういうことに心を惹かれるんです。私が書く物語は、ファンタジーと言われますが、実際は、大河のように滔々と流れる世界と歴史を思わせるような何かを書いている気がしています。
上橋 私の場合、書き進めるうちに、物語が勝手に物語を生んでいくように思えるときがあるのですが、先生はどうですか。
萩尾 そういうことは、よくありますよ。実は無意識のうちに、いくつものインスピレーションの中から、大海に流れ出そうなものを取捨選択しているのでしょう。
上橋 何か、物語の神様にでも助けてもらっているような。
萩尾 「守り人」の他に、「神様」がいたんですね(笑)。
上橋 私は、バルサには自分を重ねているところがあるのですが、チャグムは可愛くて、この子が幸せになる方法はないかと探しながら書いていました。老練な女用心棒と、成長していく少年のふたりが歩んでいく道にそって物語が広がっていったような気がします。
萩尾 チャグムの成長と共に『蒼路の旅人』があり、支流が大河に集まっていくように、すべてがこの最終巻『天と地の守り人』に収斂していく。ほんとうに、どーんと読み応えがある物語でした。
上橋 憧れの萩尾先生と対談しているのが、まだ夢のようなんですが、トールキンや萩尾先生のファンであった私が、こういう物語をつむいだように、作家は、作家を生んでいくのかもしれませんね。
萩尾 「守り人シリーズ」も、次の世代に受け継がれるといいですね。
上橋 本当に。私がこういう物語を生み出せたのは、子どもの頃に先生の作品に出会えたお陰です。ありがとうございました。
萩尾望都はぎお もと
福岡県出身。漫画家。手塚治虫の作品群に衝撃を受け、漫画家を志す。1969年デビュー。1976年に『ポーの一族』『11人いる!』で第21回小学館漫画賞、1997年に『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞、2006年『バルバラ異界』で第27回日本SF大賞、2012年紫綬褒章などを受賞。シリアスからコメディまで幅広い作風が特徴的で、多数の著書がある。