精選十の謡曲の詞章+現代語訳+英訳+解説+あらすじで650年の古典の神髄を味わい尽す。柴田元幸氏との鼎談「謡(うたい)を英語にする醍醐味」、酒井雄二氏(ゴスペラーズ)といとうせいこう氏の対談「世阿弥に学び、「芸人実感」で謡を考える」も収録。さらに、日本出版史に残る美しい光悦謡本からの装画(表紙には箔押し)&スリーブ函入、和綴の謡本を模した全頁小口袋綴造本という装幀技術を駆使した美装本『能十番―新しい能の読み方―』を刊行いたしました。
初心者には知る躍動を、上級者には耽(ふけ)る悦楽を――文学として、音楽として、650年の古典の神髄が甦る。能という「文学」を、テキストで深く読む喜びを、ぜひ味わってください。
「つゆのあとさき」が描かれた昭和初期、女給が客の隣に座って接待を施し、客は女給にチップを払うという、現代のキャバクラやラウンジのような「カッフェー」が氾濫するようになりました。永井荷風が描いたカッフェー「ドンフワン」もその一つであり、主人公の君江はそこでトップを張る超人気女給でした。
そんな、彼女を川端康成は「永井荷風氏の『つゆのあとさき』」で次のように評しています。
「主人公の女給だけは、類型を越えて生き生きと動いている。(中略)生れながらに娼婦の肉体を持ち、環境がそれに手つだって、無貞操で無恒心の生活に流れてゆく、近代都会の『ナナ』、恐らく作者はかの女を厭悪しながらも、世の因果な男達と共に、愛着せずにはいられなかったのだろう。」
さらに、本作を描き上げた永井荷風のことを、谷崎潤一郎は「『つゆのあとさき』を読む」で絶賛しています。
「この作品には、作者の虚無的な冷酷さが、在来の日本物にも見られない程度に強く出ている。そうして作者のそういう態度が、女主人公の君江という廃頽(はいたい)した女性を描くのに甚だよく調和している。つまり作者の心境と作者の描かんとする人物のそれとがピッタリ合った感じである。しかも作者は君江の性格や感覚の内部にまで立ち入っているのではない。その時その時の言語動作に附随する心持の説明はあるけれども、心理描写という所まで突っ込んではいない。」と畳みかけたように賞賛したあと、「そのそっけない乾いた書きぶりが一種の凄味を添えている。」とまで言い切っています。
「永井荷風氏の『つゆのあとさき』」(川端康成)と「『つゆのあとさき』を読む」(谷崎潤一郎)は、『つゆのあとさき・カッフェー一夕話』(新潮文庫)巻末に収録されています。二人の文豪が太鼓判を押す昭和のラウンジ嬢の物語は、最後の一行まで気の抜けない驚嘆のストーリーです。